ナナメ横から世間を眺める。

ニュースを取り上げてみたり、たまに多数意見に抗ってみたり。

リテラシーを嘆くシリーズ:突然会社がなくなった人のニュースから

どうも、ジヤッキー天野です。

お金が貯まらない人の行動パターン第1位は「半額シールのついた品を買い漁る」だそうです。呼んだ?

 

さてこのシリーズは不定期でして(ブログ自体が不定期ですが)。

 

巷に起こったニュースの記事に、たまにとんでもないコメントがつくことがあります。

ほいでもって、そこにとんでもない数の「そう思う」が付くことがあります。
(ま、ヤ○ーニュースですね笑)。

わたくしはそういうのを見ると、クラクラと目眩を起こしてバターンと倒れてしまう特異体質の持ち主なのでございます。

だったらニュースピッ○ス見てろというツッコミは華麗にスルーしつつ、そんな事象について解説してまいりましょう、と。記念すべき第1回は、こちら。ドン。

 

突然の解雇通告で注目のゲーム会社 「事業譲渡に向け交渉中」(東京商工リサーチ) - Yahoo!ニュース

(一部引用)
2月26日夜、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)の「Twitter」などで、都内のソーシャルゲーム会社に勤務する複数の社員が「きょうで解雇された」と相次いで投稿した。解雇に関するツイートは注目を集め、27日昼までにリツイート数が1万8000を超える事態となった。

 27日午前、このソーシャルゲーム会社A社の代表は東京商工リサーチTSR)の取材に応じた。A社代表は、業績不振などを理由に「今春リリース予定だったゲームのサービス開始を延期せざるを得なくなった」と話し、「あらゆる方策を講じている最中」と説明した。

 Twitterのタイムライン上には、「倒産した」や「破産した」などの投稿がみられるが、A社代表は「清算や法的手続きはとっておらず、現在、ゲーム事業や株式の譲渡を同社に関心を寄せる企業と交渉中」とコメントした。
(以下略、引用ここまで)


ツイッターで話題になりましたね。

ご本人さんは誠にお気の毒、未払い給与と新たな仕事が手に入るといいですね。心から御安全を願っております。頑張ってください。

 

でもって、問題はこのニュースに付いたトップコメント、およびそう思うの所謂赤ポチの数。唖然呆然なのでございます。

 

1位 。
「社名を伏せるなら記事にしなくてよいのでは」

 

2位 。
「テレビ屋さんもそうだが、名前出せないなら発信しないで頂きたい」

 

で、それらコメントに付いた「そう思う」の赤ポチの数、いずれも3000超。

 

うわあああああっ。
ぎええええええっ。


こらいかん。少し解説しましょう。

※私は業界の中の人とかではないので、専門家の方から見ると拙い面も多々あるでしょうがご容赦ください。

 

記事元の会社は、東京商工リサーチです。

TSRと略されることも、ままあります。

 

同社は、企業分野の信用調査会社です。
(個人対象の信用調査会社もありますが、本文での信用調査会社との記載は、すべて企業分野のそれを指すこととします。)

 

同業には帝国データバンク(略称TDB)があり、この2社でほぼ寡占状態だそうです。

 

ちなみに、会社の規模はTDBのほうが倍ほど大きく、TSRはチャレンジャー戦略を取っているからか、倒産情報の文章とか今回のようなニュースの扱いとか、割とポッピンなところがあります。私どっちかといえばTSR派です、ハイ。

 

さて、信用調査会社の使命は会社間の経済活動の円滑化であり、メインの業務は信用情報の販売です。

どういうことか。

 

会社と取引をするとき、明日潰れるかもわからない会社と、健全な会社、どっちがいいかっていえば絶対後者ですよね。

 

ビジネスにおける企業対企業の取引は、モノやサービスを先に納めて代金は後払い、が普通なので、納品済みなのにトバれちゃって代金取りっぱぐれになったら大惨事です。
(個人でいうと、クレジットカード使い倒して引落日の前に自己破産、みたいな感じですね。ちなみにクレジットって和訳すると「信用」です。)

 

潰れるには至らずとも、やれ支払いは待ってくれとか分割払いにしてくれとか色々あるので、相手は健全な会社のほうが望ましいといえます。

 

ところが社外からみると、会社の健全度はなかなかわからない。印象と内情が異なることもある。

 

そこで信用調査会社があの手この手で、いろんな会社のことをあらかじめ調べてくれている訳です。


で、お金さえ払えばそれを売ってくれるのですね。この会社の安全ランクはこうこうですよ、こんな情報がありますよ、と。

 

で、会社が取引を始めるときに(既に取引のある会社を再調査する場合もあり)、それを買って判断する。


これが、信用調査会社のビジネスモデルです。

 

で、そうした業務に関連して、信用調査会社は会社の倒産に関する情報を開示しています(倒産にもいろいろあるのですが、割愛します)。

 

世の中のしくみはややこしくて、取引先の取引先が潰れた→取引先が共倒れ→流れ弾被弾、みたいなこともあったり、逆に潰れた会社の代替先としてワンチャン到来みたいなこともあったりするので、倒産情報が広く周知されるに越したことはありません。

 

こうした場合、信用調査会社は、倒産が確定した段階ではじめて社名を公表します。情報収集力が彼らのウリですから、あらかたの情報は手元に既にあるのでしょうが、それでも社名の公表は倒産確定のあとです。

 

ザックリ言うと、裁判官がハイ倒産決定といって書類に判子をボーンと押して、はじめて公表に至ります。

 

(若干の例外として、社長が失踪して音信不通になって事実上の事業停止、みたいなケースはあります。ちなみに、そうとは知らずに出社してきてモヌケの殻と化した事務所の前で呆然と立ち尽くす社員さんに突撃インタビューといった、なかなかアグレッシブな仕事ぶりも、たまに見られることがあります。)

 

で、逆に言うと。
ここからがきょうの本題です。

 

信用調査会社が、未確定の倒産情報について、社名公表をフライングすることは、ありません。

 

なぜかを想像してみましょう。

たとえばあなたが、信用調査会社の社員だったとします。


で、もう倒産がほぼ本決まりで弁護士もソワソワと出入りしているような会社の情報をキャッチしました。社長に突撃取材したら、大筋で事実を認めました。


で、社名を明らかにしました。


で、予定通りまもなく倒産したとします。

 

さて、もし窮鼠猫を噛む社長さんが、こんな風に豹変したらどうしましょう。

 

「なんて事してくれたんだ、おい!ウチは潰す気なんかさらさらなかったんだ!お前んとこがあんなこと書くからだよ!どう責任取るんだ!訴えてやる!!」

 

怖いですね。恐ろしいですね。いろんな社長さんがいますからね。ビジネス、それは魑魅魍魎の蠢く世界。

 

もうちょっと善人寄りな社長さんでも、こんな場合もあるかもしれません。

 

「社長!ギリギリのところで、スポンサーが見つかりましたぁっ!」

「本当かっ!危なかった!あと1時間、いやあと30分遅かったら、オシマイだった!よかった!よくやった!」

「あっ!当社倒産の誤報が出ています!うわっ!取引先がカチ込んできましたぁっ!」

「何だとおっ!!うわああぁぁぉ☆#$¥÷」

 

えーと、コント風のフィクションですので悪しからず(まずもってこの修羅場でスポンサー探しを部下に投げる社長もいないと思いますが)。要するに、誤報を打ってもいいことがひとつもない、という例えです。

 

上場会社だと事態はもっとシビアで、いろんな情報に反応して株価は敏感に動きますから、下手なことを書いたらとんでもないことになります。ちなみにニセ情報で株価を操ることを風説の流布(ふうせつ-の-るふ)と言います。

 

(余談ですが、倒産寸前の会社の株取引って結構エグくて、1円だった株価が2円になって倍儲かった→また1円になって半分スッた→今度は3円になって再び爆儲け→会社が潰れて全部パーみたいな、ロシアンルーレットしながらチキンレースやってるようなところがあるので、素人が手を出すのはよしましょうね。)

 

そんなこんなで、今回のニュースについて、信用調査会社が社名を伏せて報道しているのは、当たり前田のクラッカー。これが、本稿の結論となります。
一般のマスコミと信用調査会社では、ニュースソースとしての重みも異なりますし、なにしろ信用調査会社が信用を失っては元も子もありませんので、ね。


それでは最後に、皆さん一緒にご唱和を。


「気をつけろ その赤ポチは 赤っ恥」


どうもでした。