ナナメ横から世間を眺める。

ニュースを取り上げてみたり、たまに多数意見に抗ってみたり。

バイトのバカッター問題で、最も心を痛める人達。(前編)

はじめまして、ジヤッキー天野です。

情に棹差して流されてみたり、大したことない智に働いて角を立ててみたいと思います。

さて、このところバイトのバカッター問題が大変だ。この問題に心を痛めている人は、たくさんいるだろう。

経営者におかれましては。ウチの会社で起こったらどうしよう。

広報担当者におかれましては。あんなの修羅場だな、シャレにならん。

管理職の皆様におかれましては。頼む、自分の部下はやらかさないでくれ。

切実だ。


ただ、この問題に最も心を痛めている人達は誰か。

ズバリ断言しよう。それは、


「日本中の、真面目に頑張っている、誠実で律儀なバイトの人達」


である。


理由の説明に代えて、極めて私的かつ断片的だが、2つほど自分の昔話をしたい。

(ここからは、一旦学生アルバイトに話を絞って進める。フリーターさんとかはある意味バイトのプロであり、特に生活がかかっている人はそんなバカはまずやらないと思うので。)


一つ目。

今を遡ること20余年前、某社で高校の模擬試験のバイトをしていた。

仕組みが実にうまくできていて、バイト内にリーダーのヒエラルキーがあって、1科目に一人だけが選ばれる統括リーダー(採点知識と組織マネジメントの両刀を操る、いわゆるエース格だ)を筆頭に、業務はバイト内で基本完結。

社員さんはたまーに、どもー大丈夫っすかーなんて声を掛けにくる程度。

貸し切られた採点会場はさながら地下アジトが如く、ズラリ集まった100人は超えようかというバイト集団が、ひたすらに赤ペンを握り山積みの答案に対峙する(まだタブレットとかない時代だったので、紙ですね、ハイ)。

品質第一。
納期必達。

まあ管理職層と末端層(バイトのね)では多少の温度差はあったにせよ、概ね皆張り切ってやっていたものだ。



さて、その会社には「教員採点」という仕組みがあった。
これは答案の品質担保のために、一定割合を現役の教師に委託して採点させるものであった。
(今思えば品質云々は名目で、学校との顔つなぎとか現実的な意味があったのだろう。まぁ時効だろうからゲロるが、その肝心要の採点品質もムラが激しく、毎度我々は修正に苦慮していたものだ)。

ちなみに、模試の採点には記入ルールというものが存在する。

勿論最も重要なのはミスなく同様の基準下で採点されることだが、本番入試と違い模試の答案は生徒さんの手元に返る。
つまり答案は商品であり、一定の見た目も大事となる。

また所謂赤ペン先生のような添削はせず、シンプルにマルバツサンカクと部分減点のみを書き込む決まりになっている。
主な理由は二つ。一つは採点スピード即ち生産性の低下抑止。もう一つは添削内容への問い合わせや解釈相違による再採点要請を避けるためだ。
(対応に膨大な対応工数がかかるばかりか、再採点が起こるといつまでたっても平均点や偏差値が確定しない。そう、模試採点はノークレームノーリターンの一発勝負なのだ。)

ある日、事件は起こる。

ダブルチェックのために手元に返ってきた教員採点の答案を見た我々は、目を疑い、そして仰け反った。

「ぐはぁっ!?」

NGであるはずの白の修正液が、コッテリ盛られているではないか
ご法度であるはずの添削が、真っ赤っかのかーに書き込まれているではないか。


これやったの誰だ、おい。

新参バイトの仕事だったら、別部屋で小一時間説教だぞこれ。


更に。
ある生徒さんの答案が、茶に染まっている。

なんじゃこりゃあ。


コーヒーか。
コーヒーかよ。

この野郎、コーヒーなんか飲みながらやってたのか。飲料厳禁はイロハのイだろうが、なあ。*紙の時代です


我々は即座に社員さんの元に走った。

報告を上げるため、ではない。

突き上げるため、である。


我々は頭から湯気を噴き立てて、一気呵成にまくし立てた。
そう、整理券をもらいそびれたカープファンの如くに。


いったいどうするんですか、これ。

こんなもの、返せる訳ないじゃないですか。

なんで、小銭欲しさに(いや君らもだが)、適当にやってるような奴に大事な答案任すんすか。

こういうの、本当もうやめましょうよ。

ウチの会社の看板に関わる話ですよ、これ。


遊びじゃないんですよ、ねえ。



不意に難詰されシドロモドロになった社員さんは「上に報告してくる」と言い残し、逃げるようにその場を立ち去った。多分、あとはよしなに処理されたのだろう。

今思い返してもそれはまあ、なかなかの熱量であった。

他にも我々は居酒屋で採点基準の解釈を巡って侃侃諤諤の議論を交わしたり、当時赤ペンはパイロット社製とセーラー社製が並存していたのだがそのどちらがより優れているかを二派に分かれて討論していたものである。


そう、たかがバイト、されどバイトである。


ノメる奴は、ノメるのである。


ちなみにあの仕事は、ヘタなインターンシップよりよほど勉強になった。当時の仲間とは今も交流が深い。社員さんはさぞや面倒臭かったろうが…(といいつつ、その社員さんともまだつながりがある)。



ええと、このままだと俺カッケーで終わってしまうので、もう一つの話を。

時は過ぎ、私は某小売業に正社員で就職した。ある日のある時間帯、売場には私と勤勉なバイト君の二人。

確かとんでもない物量の荷物が来ただったか何かで、僕の気持ちは随分と萎えていた。

たまらず僕は、冗談半分でこう呟いた。

「あー、だりぃー。もう帰ろっかなー(笑)」

刹那、バイト君。
こちらを向いて、一閃。


「仕事ですよ!!!」



温厚な人であったから、笑顔ではあった。が、しかし。

やべえ。目が笑ってねえ。

僕は自らの有様を深く恥じ入るとともに、人前で軽々しくダリイーだのカッタリイーだのウゼエーだの二度と言うまい、と固く心に誓った。


そう、たかがバイト、されどバイトである。

ノメる人は、ノメるのである。


実は他にも、その後新たに赴任した店のバイトが前任者の教育がなっておらずグッダグダで、うち二人ほど(その一人には逆ギレされ摑みかかられて取っ組み合いとなった結果)お引き取り願ったというクリーミーなエピソードもあるのだが、ここでは割愛する。


ともあれ。はいここ、重要。



バイト、なめんな。



そう、一連のバイトバカッター騒動で一番悔しい思いをしているのは、いまバイトにノメっている人、あるいは過去にノメった経験がある人、なはずなのだ。
(ちなみに更にノメると、競合会社で不祥事が起こるとヨッシャやったぜ自滅だぜと大喜びするようになる、多分。)

大事なことなので二度言いますね。リピートアフターミー。


バイト、なめんな。


ほい、オッケーです。

でこういう話、ブラック企業論でおなじみ今野某さんあたりに言わせると「やりがい搾取」って言われてしまうんだろうけど、さ。何かその一言で片付けられるのも淋しいやね、とも思ったりしつつ。ま、搾取はいかんけども。

そんな中(どんな中だ)、ウチにもバカバイトがいやしまいか、アッシ左遷とか記者会見とかまっぴら御免の助でござい、とハラハラドキドキの現場管理職の皆様に、心ばかりのワンポイントアドバイスを。

 

(長くなったのでつづく)