ナナメ横から世間を眺める。

ニュースを取り上げてみたり、たまに多数意見に抗ってみたり。

東京メトロのこと。

どうも、ジヤッキー天野です。

風呂敷は拡げるより畳むほうが難しいと痛感する毎日です。

 

さて、昨日3月3日は東京マラソンの日で、朝からテレビ中継をダラダラ見ていた。

大会は「東京メトロスペシャル」と銘打たれており、石原さとみさんのCMがジャンスカ流れていた。

これ、凄っげえ金かかってんだろうな…とボンヤリ考えていたところ、妻がこう言った。

 

「地下鉄なんて、コマーシャルやる意味あるのかしら?」

 

確かになあ。一部路線でJRや私鉄と競合するからとか?バスや自家用車から客を獲るとか?
いやあ、乗る人は乗るよね。

 

都内の移動は実は地下鉄が超便利ですよ、というアピール?うーん、いまは行き先はスマホで検索する時代だから自動で乗車案内が出てくるし。

 

で、いろいろ考えて、こう結論づけた。

 

きっと「イメージを上げておくこと」が大事なんだろう、と。

 

鉄道のように社会インフラを担う企業は「普通で当たり前」なところがあって、ちょっと何かあろうものならやれ止まった遅れた混んでるなんとかしろいい加減にせい、と責められる。

ので、普段からイメージの維持向上に努めておくことが、苦情対応コストの抑制を含む諸業務の負荷軽減に相応の意味があるのではないか。

みたいな話を、妻にした。

「そんなものかしらね」と妻は呟いて、洗濯物を干しに去って行った。

 

夜にこれまたボンヤリ見ていたテレビで、千葉市だったかのとある銭湯で、壁の絵を陸前高田の「奇跡の一本松」に描き換えたところたまたまご出身の方がいらっしゃって、たいそう感激されたというエピソードをやっていた。

 

そっかあ、陸前高田かあ。

震災だなあ。

もうすぐ平成も終わるけど、その30年ちょいに阪神大震災東日本大震災が両方あったんだもんなあ、すごい時代だよなあ…などと振り返りつつ、ふと8年前の日を思い出した。

 

私は千葉の船橋に住んでいる。関東在住と東北在住、また同じ千葉県民でも津波液状化のあった地区の方々とは勿論比べるべくもないのだが、それはそれでそれなりの大変さはあった。

 

当時の勤務地は、東京の丸の内。

早々に、JRが止まった。

さあ、帰れない。

 

今でこそ東京勤めの人は次に大災害が来たら無理して帰るべからず、しばらくは東京にとどまるべしというコンセンサスが出来たが、なにしろそこは当時のことだ(というか、そのコンセンサスが震災の教訓から生まれたものだ)。

家に妻も子もいる。いかにして帰るか。

タクシーなど捕まる筈もない。とりあえず歩くだけ歩こう、と七時過ぎにあてもなくオフィスを出たはいいものの、30分も歩いたところで早速挫折した。たまたま見つけた喫茶店に入り、会社に引き返すべきか否か葛藤しつつ、ネットがつながる会社貸与のノートパソコンと、ガラケーワンセグ(!)で情報収集にあたった。

 

しばらくして、一報が入った。

 

東京メトロは、まもなく一部路線で、運転を再開する見込みです」

 

何だと。このような未曾有の大混乱時に、動かす、だと。

凄いじゃないか、東京メトロ
強いぞ、東京メトロ

 

いや待て。東京メトロは、基本は東京都民の足だ。千葉住まいには…、あ。あるじゃないか、東西線が。西船橋まで、行けるじゃないか。

頼む、動いてくれ東西線

 

待つことしばし、刻々と流れるニュースに混じって次なる知らせが。

東西線は現在運転を見合わせておりますが、安全の確認が取れ次第、運転を再開する見通しです」

 

結局その安全確認にはかなりの時間を要したものの、果たして運転は再開された。

とりあえず東陽町までとか紆余曲折があったように記憶しているが、結局隣の市川市の行徳まで辿り着くことができ(流石に終点の西船橋までは走らなかった)、そこから3時間歩いて家に着いた。夜の3時近かったが、妻も子もまだ起きていた。人生で一番安心した場面を述べよと言われたら、今日に至ってもあの瞬間を挙げるかもしれない。

 

当時のJRを責めるつもりは、毛頭ない。
社内規定もあるだろうし、きわめて複雑怪奇な運行体系がひとたび分断されると収拾がつかなくなるであろうことは、素人にも想像がつく。

 

次に何かが起こったときに、同じことを東京メトロに期待するつもりも、毛頭ない。

あの日以来、世の中の「安全」に対するプレッシャーは格段に上がったし、先の震災を上回る規模のものがやってこないとも限らない。職場で大人しくしているのが吉だ。

 

ただ言いたいことは、あの日の東京メトロへの、感謝だ。

 

「運行再開」の知らせに、どれほどの希望を見出したか。

ホームに滑り込んでくる電車を見て、どれほど嬉しかったか。

黙々と働く駅員さん達を見て、どれほどの勇気をもらったか。

 

いまもって、感謝しかない。

 

かくいう私も普段は来るのおっそいなー、このぐらいで止まんなよー、とブー垂れているクチである。たまには、当たり前のことを当たり前にやる難しさ、そして当たり前のことを当たり前にやろうとしている人達の凄さや大変さに、思いを馳せねばなるまいな。ちゃんとしよう。なーんてことを考えた一日の話であった。

 

いろんな人の夢とか現実とか、ワクワクとかガッカリとかアワワとか、ぜーんぶひっくるめて、電車は走る。どうかこれからも、頑張って下さい。

 

(付記)
この原稿を途中まで、東京メトロ丸の内線の車中で書いている。ラッキーにも、新型車両がやってきた。ほう、2000系か。

いいじゃないか。とても、カッコいい。

リテラシーを嘆くシリーズ:突然会社がなくなった人のニュースから

どうも、ジヤッキー天野です。

お金が貯まらない人の行動パターン第1位は「半額シールのついた品を買い漁る」だそうです。呼んだ?

 

さてこのシリーズは不定期でして(ブログ自体が不定期ですが)。

 

巷に起こったニュースの記事に、たまにとんでもないコメントがつくことがあります。

ほいでもって、そこにとんでもない数の「そう思う」が付くことがあります。
(ま、ヤ○ーニュースですね笑)。

わたくしはそういうのを見ると、クラクラと目眩を起こしてバターンと倒れてしまう特異体質の持ち主なのでございます。

だったらニュースピッ○ス見てろというツッコミは華麗にスルーしつつ、そんな事象について解説してまいりましょう、と。記念すべき第1回は、こちら。ドン。

 

突然の解雇通告で注目のゲーム会社 「事業譲渡に向け交渉中」(東京商工リサーチ) - Yahoo!ニュース

(一部引用)
2月26日夜、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)の「Twitter」などで、都内のソーシャルゲーム会社に勤務する複数の社員が「きょうで解雇された」と相次いで投稿した。解雇に関するツイートは注目を集め、27日昼までにリツイート数が1万8000を超える事態となった。

 27日午前、このソーシャルゲーム会社A社の代表は東京商工リサーチTSR)の取材に応じた。A社代表は、業績不振などを理由に「今春リリース予定だったゲームのサービス開始を延期せざるを得なくなった」と話し、「あらゆる方策を講じている最中」と説明した。

 Twitterのタイムライン上には、「倒産した」や「破産した」などの投稿がみられるが、A社代表は「清算や法的手続きはとっておらず、現在、ゲーム事業や株式の譲渡を同社に関心を寄せる企業と交渉中」とコメントした。
(以下略、引用ここまで)


ツイッターで話題になりましたね。

ご本人さんは誠にお気の毒、未払い給与と新たな仕事が手に入るといいですね。心から御安全を願っております。頑張ってください。

 

でもって、問題はこのニュースに付いたトップコメント、およびそう思うの所謂赤ポチの数。唖然呆然なのでございます。

 

1位 。
「社名を伏せるなら記事にしなくてよいのでは」

 

2位 。
「テレビ屋さんもそうだが、名前出せないなら発信しないで頂きたい」

 

で、それらコメントに付いた「そう思う」の赤ポチの数、いずれも3000超。

 

うわあああああっ。
ぎええええええっ。


こらいかん。少し解説しましょう。

※私は業界の中の人とかではないので、専門家の方から見ると拙い面も多々あるでしょうがご容赦ください。

 

記事元の会社は、東京商工リサーチです。

TSRと略されることも、ままあります。

 

同社は、企業分野の信用調査会社です。
(個人対象の信用調査会社もありますが、本文での信用調査会社との記載は、すべて企業分野のそれを指すこととします。)

 

同業には帝国データバンク(略称TDB)があり、この2社でほぼ寡占状態だそうです。

 

ちなみに、会社の規模はTDBのほうが倍ほど大きく、TSRはチャレンジャー戦略を取っているからか、倒産情報の文章とか今回のようなニュースの扱いとか、割とポッピンなところがあります。私どっちかといえばTSR派です、ハイ。

 

さて、信用調査会社の使命は会社間の経済活動の円滑化であり、メインの業務は信用情報の販売です。

どういうことか。

 

会社と取引をするとき、明日潰れるかもわからない会社と、健全な会社、どっちがいいかっていえば絶対後者ですよね。

 

ビジネスにおける企業対企業の取引は、モノやサービスを先に納めて代金は後払い、が普通なので、納品済みなのにトバれちゃって代金取りっぱぐれになったら大惨事です。
(個人でいうと、クレジットカード使い倒して引落日の前に自己破産、みたいな感じですね。ちなみにクレジットって和訳すると「信用」です。)

 

潰れるには至らずとも、やれ支払いは待ってくれとか分割払いにしてくれとか色々あるので、相手は健全な会社のほうが望ましいといえます。

 

ところが社外からみると、会社の健全度はなかなかわからない。印象と内情が異なることもある。

 

そこで信用調査会社があの手この手で、いろんな会社のことをあらかじめ調べてくれている訳です。


で、お金さえ払えばそれを売ってくれるのですね。この会社の安全ランクはこうこうですよ、こんな情報がありますよ、と。

 

で、会社が取引を始めるときに(既に取引のある会社を再調査する場合もあり)、それを買って判断する。


これが、信用調査会社のビジネスモデルです。

 

で、そうした業務に関連して、信用調査会社は会社の倒産に関する情報を開示しています(倒産にもいろいろあるのですが、割愛します)。

 

世の中のしくみはややこしくて、取引先の取引先が潰れた→取引先が共倒れ→流れ弾被弾、みたいなこともあったり、逆に潰れた会社の代替先としてワンチャン到来みたいなこともあったりするので、倒産情報が広く周知されるに越したことはありません。

 

こうした場合、信用調査会社は、倒産が確定した段階ではじめて社名を公表します。情報収集力が彼らのウリですから、あらかたの情報は手元に既にあるのでしょうが、それでも社名の公表は倒産確定のあとです。

 

ザックリ言うと、裁判官がハイ倒産決定といって書類に判子をボーンと押して、はじめて公表に至ります。

 

(若干の例外として、社長が失踪して音信不通になって事実上の事業停止、みたいなケースはあります。ちなみに、そうとは知らずに出社してきてモヌケの殻と化した事務所の前で呆然と立ち尽くす社員さんに突撃インタビューといった、なかなかアグレッシブな仕事ぶりも、たまに見られることがあります。)

 

で、逆に言うと。
ここからがきょうの本題です。

 

信用調査会社が、未確定の倒産情報について、社名公表をフライングすることは、ありません。

 

なぜかを想像してみましょう。

たとえばあなたが、信用調査会社の社員だったとします。


で、もう倒産がほぼ本決まりで弁護士もソワソワと出入りしているような会社の情報をキャッチしました。社長に突撃取材したら、大筋で事実を認めました。


で、社名を明らかにしました。


で、予定通りまもなく倒産したとします。

 

さて、もし窮鼠猫を噛む社長さんが、こんな風に豹変したらどうしましょう。

 

「なんて事してくれたんだ、おい!ウチは潰す気なんかさらさらなかったんだ!お前んとこがあんなこと書くからだよ!どう責任取るんだ!訴えてやる!!」

 

怖いですね。恐ろしいですね。いろんな社長さんがいますからね。ビジネス、それは魑魅魍魎の蠢く世界。

 

もうちょっと善人寄りな社長さんでも、こんな場合もあるかもしれません。

 

「社長!ギリギリのところで、スポンサーが見つかりましたぁっ!」

「本当かっ!危なかった!あと1時間、いやあと30分遅かったら、オシマイだった!よかった!よくやった!」

「あっ!当社倒産の誤報が出ています!うわっ!取引先がカチ込んできましたぁっ!」

「何だとおっ!!うわああぁぁぉ☆#$¥÷」

 

えーと、コント風のフィクションですので悪しからず(まずもってこの修羅場でスポンサー探しを部下に投げる社長もいないと思いますが)。要するに、誤報を打ってもいいことがひとつもない、という例えです。

 

上場会社だと事態はもっとシビアで、いろんな情報に反応して株価は敏感に動きますから、下手なことを書いたらとんでもないことになります。ちなみにニセ情報で株価を操ることを風説の流布(ふうせつ-の-るふ)と言います。

 

(余談ですが、倒産寸前の会社の株取引って結構エグくて、1円だった株価が2円になって倍儲かった→また1円になって半分スッた→今度は3円になって再び爆儲け→会社が潰れて全部パーみたいな、ロシアンルーレットしながらチキンレースやってるようなところがあるので、素人が手を出すのはよしましょうね。)

 

そんなこんなで、今回のニュースについて、信用調査会社が社名を伏せて報道しているのは、当たり前田のクラッカー。これが、本稿の結論となります。
一般のマスコミと信用調査会社では、ニュースソースとしての重みも異なりますし、なにしろ信用調査会社が信用を失っては元も子もありませんので、ね。


それでは最後に、皆さん一緒にご唱和を。


「気をつけろ その赤ポチは 赤っ恥」


どうもでした。

バイトのバカッター問題で、最も心を痛める人達。(後編)

どうも、ジヤッキー天野です。

 

前回は、バイトのバカッター問題で、最も心を痛める人達はノメリ込んでいる現役バイトの人、または過去にノメリ込んだ経験のある人だというお話でした。

 

バイトのバカッター問題で、最も心を痛める人達。(前編) - ナナメ横から世間を眺める。

 

で、ウチにもバカバイトがいやしまいか、アッシ左遷とか記者会見とかまっぴら御免の助でござい、とハラハラドキドキの現場管理職の皆様に、心ばかりのワンポイントアドバイスでございます。


まず、通り一遍の「皆さん気をつけましょう」的な動画を見せてハイ研修しました、的な奴。

あれは、企業のアリバイ作りとしてはともかく、実効性がほとんどないことは、教育研修の世界では随分前からすでに明らかになっている(自動車免許の更新講習を想起するとわかりやすかろう)。

ならば、どうするか。

ズバリ、


「バイトは、バイトにシメさせろ。」


である。

バイトにとって社員はアッチ側の人、体制側の人間である。×××な学校(自粛)の生徒と教師の関係に似たようなものだ。

バカバイトともなれば、ハナから言うことを聞かないか、面従腹背。これが世の必然である。

しかるに、「バイトのボス」の言うことは、聞くのである、これが

要は、バイトの中でプチ部活感ないしはプチサークル感を演出し、彼ら彼女らに自治させるのがよろしい。

リーダー候補は可能ならば1年生のうちからこれぞと見込んだ人に目星をつけて、帝王学を叩き込むのが望ましい。

とはいえ、やむなく現有バカ勢力の中からリーダーを選ばざるを得ないこともあろう。

その場合の人選基準は「対人影響力」に尽きる。いくら誠実で、いくら賢くて、いくら正義感があっても、話を聞いてもらえないことにはどうしようもない。多少トンパチな子でも、ここは目をつぶろう。

で一人だけ、こっそり呼び出す。

そして、褒めて褒めて、褒めちぎる。

かねがね、君の仕事ぶりは素晴らしいと思っていた。ありがとう。本当にありがとう。
今の職場は、君の力で持っている。
君なかりせば、我々はおしまいだ。
君との出会いは、計り知れない財産だ。
この職場は、いやこの会社は、君の双肩にかかっている…。

できればそこで、そっと時給を上げてあげるとよい。
ポイントは金額より「スペシャル感」である。バカバイト連中に砂漠に水を撒くが如く薄く広くバラまくより、遥かに効果がある。

いいかい、これは特別だよ。
君だけだ。
他の子には、内緒だよ。
絶っ対に、内緒だよ。

で、最後に一言添える。

他のバイト君達も頑張っているが、まだまだだ。
君に比べれば、どうしても見劣りしてしまうんだ。
君は別格だ。
是非、彼ら彼女らの手本としてこれからも頑張ってくれ。
君の背中を、見せてやってくれ。

君が頼りだ。頼む。



で、職場に戻す。

同時に、密会の事実は伏せつつ、みんなの前で盛大に持ち上げるようにする。

いいねー。
やるねえー。
気が利くねえー。
凄いねー。
おっと、君なら仕方ないや、ドンマイだ。
なるほどその手があったか。
ははあ流石だねー、先生。

でもって、チラリと目配せをする。


ハナから上手くいく場合もある。

皆の前でちょっと甲斐甲斐しく働くようになったり、「それダメだよー」なんて仕切り出したらヨッシャキター、である。

(ちなみに呼び出した時点で「いやぁアイツは・・はいいとこあるんすけど、・・がイケてないんスよねー」なんて査定モードに入ってくれたら、八割方勝ったようなものだ。)


他方、そう上手くいかない場合もある。
なんかお前、最近スカしてんじゃね?などと言われ、浮いたりハブられそうになったりすることもある。

その場合は、もう無理ですと泣きついてきたタイミングで、また持ち上げて持ち上げて、持ち上げまくる。


この職場は、いやこの会社は、君の双肩にかかっている。
君が頼りだ。頼む。

これを辛抱強く、繰り返す。

で、なんとなくバイト全体の動きが変わってくれば、完成と考えてよい。当人にリーダーらしき風格が出てくればなおよし。

あるいは、どうしようもない腐ったミカン野郎がぐあーもう付いてけねーやってらんねーなどと吐き捨てて去って行ってくれれば、最高である(ヤバい奴は人材ではなく人罪だ、などとよくいうが、人罪を抱えておくヤバさは逆プライスレスであり、それに比べれば人手不足など訳もない)。

ひとたびリーダーっぽい人物が現れたら、あとは当人達で代替わりさせればよい。リーダーはリーダーが選ぶ。一子相伝。きっと社員も知らない組織運営の奥義が伝承されていくことだろう。

まぁ突き詰めればよくある経営学のモチベーション系の話だよね、ってことになるのだが、なにしろタダの言葉と少しばかりの時給で職場が変われば、コスパ的には申し分なかろう。是非無理のない範囲でお試しいただきたい。

※個人の見解であり、確実に成功することを保証するものではありません。結果は自己責任で。御利用は計画的に。

 

バイトのバカッター問題で、最も心を痛める人達。(前編)

はじめまして、ジヤッキー天野です。

情に棹差して流されてみたり、大したことない智に働いて角を立ててみたいと思います。

さて、このところバイトのバカッター問題が大変だ。この問題に心を痛めている人は、たくさんいるだろう。

経営者におかれましては。ウチの会社で起こったらどうしよう。

広報担当者におかれましては。あんなの修羅場だな、シャレにならん。

管理職の皆様におかれましては。頼む、自分の部下はやらかさないでくれ。

切実だ。


ただ、この問題に最も心を痛めている人達は誰か。

ズバリ断言しよう。それは、


「日本中の、真面目に頑張っている、誠実で律儀なバイトの人達」


である。


理由の説明に代えて、極めて私的かつ断片的だが、2つほど自分の昔話をしたい。

(ここからは、一旦学生アルバイトに話を絞って進める。フリーターさんとかはある意味バイトのプロであり、特に生活がかかっている人はそんなバカはまずやらないと思うので。)


一つ目。

今を遡ること20余年前、某社で高校の模擬試験のバイトをしていた。

仕組みが実にうまくできていて、バイト内にリーダーのヒエラルキーがあって、1科目に一人だけが選ばれる統括リーダー(採点知識と組織マネジメントの両刀を操る、いわゆるエース格だ)を筆頭に、業務はバイト内で基本完結。

社員さんはたまーに、どもー大丈夫っすかーなんて声を掛けにくる程度。

貸し切られた採点会場はさながら地下アジトが如く、ズラリ集まった100人は超えようかというバイト集団が、ひたすらに赤ペンを握り山積みの答案に対峙する(まだタブレットとかない時代だったので、紙ですね、ハイ)。

品質第一。
納期必達。

まあ管理職層と末端層(バイトのね)では多少の温度差はあったにせよ、概ね皆張り切ってやっていたものだ。



さて、その会社には「教員採点」という仕組みがあった。
これは答案の品質担保のために、一定割合を現役の教師に委託して採点させるものであった。
(今思えば品質云々は名目で、学校との顔つなぎとか現実的な意味があったのだろう。まぁ時効だろうからゲロるが、その肝心要の採点品質もムラが激しく、毎度我々は修正に苦慮していたものだ)。

ちなみに、模試の採点には記入ルールというものが存在する。

勿論最も重要なのはミスなく同様の基準下で採点されることだが、本番入試と違い模試の答案は生徒さんの手元に返る。
つまり答案は商品であり、一定の見た目も大事となる。

また所謂赤ペン先生のような添削はせず、シンプルにマルバツサンカクと部分減点のみを書き込む決まりになっている。
主な理由は二つ。一つは採点スピード即ち生産性の低下抑止。もう一つは添削内容への問い合わせや解釈相違による再採点要請を避けるためだ。
(対応に膨大な対応工数がかかるばかりか、再採点が起こるといつまでたっても平均点や偏差値が確定しない。そう、模試採点はノークレームノーリターンの一発勝負なのだ。)

ある日、事件は起こる。

ダブルチェックのために手元に返ってきた教員採点の答案を見た我々は、目を疑い、そして仰け反った。

「ぐはぁっ!?」

NGであるはずの白の修正液が、コッテリ盛られているではないか
ご法度であるはずの添削が、真っ赤っかのかーに書き込まれているではないか。


これやったの誰だ、おい。

新参バイトの仕事だったら、別部屋で小一時間説教だぞこれ。


更に。
ある生徒さんの答案が、茶に染まっている。

なんじゃこりゃあ。


コーヒーか。
コーヒーかよ。

この野郎、コーヒーなんか飲みながらやってたのか。飲料厳禁はイロハのイだろうが、なあ。*紙の時代です


我々は即座に社員さんの元に走った。

報告を上げるため、ではない。

突き上げるため、である。


我々は頭から湯気を噴き立てて、一気呵成にまくし立てた。
そう、整理券をもらいそびれたカープファンの如くに。


いったいどうするんですか、これ。

こんなもの、返せる訳ないじゃないですか。

なんで、小銭欲しさに(いや君らもだが)、適当にやってるような奴に大事な答案任すんすか。

こういうの、本当もうやめましょうよ。

ウチの会社の看板に関わる話ですよ、これ。


遊びじゃないんですよ、ねえ。



不意に難詰されシドロモドロになった社員さんは「上に報告してくる」と言い残し、逃げるようにその場を立ち去った。多分、あとはよしなに処理されたのだろう。

今思い返してもそれはまあ、なかなかの熱量であった。

他にも我々は居酒屋で採点基準の解釈を巡って侃侃諤諤の議論を交わしたり、当時赤ペンはパイロット社製とセーラー社製が並存していたのだがそのどちらがより優れているかを二派に分かれて討論していたものである。


そう、たかがバイト、されどバイトである。


ノメる奴は、ノメるのである。


ちなみにあの仕事は、ヘタなインターンシップよりよほど勉強になった。当時の仲間とは今も交流が深い。社員さんはさぞや面倒臭かったろうが…(といいつつ、その社員さんともまだつながりがある)。



ええと、このままだと俺カッケーで終わってしまうので、もう一つの話を。

時は過ぎ、私は某小売業に正社員で就職した。ある日のある時間帯、売場には私と勤勉なバイト君の二人。

確かとんでもない物量の荷物が来ただったか何かで、僕の気持ちは随分と萎えていた。

たまらず僕は、冗談半分でこう呟いた。

「あー、だりぃー。もう帰ろっかなー(笑)」

刹那、バイト君。
こちらを向いて、一閃。


「仕事ですよ!!!」



温厚な人であったから、笑顔ではあった。が、しかし。

やべえ。目が笑ってねえ。

僕は自らの有様を深く恥じ入るとともに、人前で軽々しくダリイーだのカッタリイーだのウゼエーだの二度と言うまい、と固く心に誓った。


そう、たかがバイト、されどバイトである。

ノメる人は、ノメるのである。


実は他にも、その後新たに赴任した店のバイトが前任者の教育がなっておらずグッダグダで、うち二人ほど(その一人には逆ギレされ摑みかかられて取っ組み合いとなった結果)お引き取り願ったというクリーミーなエピソードもあるのだが、ここでは割愛する。


ともあれ。はいここ、重要。



バイト、なめんな。



そう、一連のバイトバカッター騒動で一番悔しい思いをしているのは、いまバイトにノメっている人、あるいは過去にノメった経験がある人、なはずなのだ。
(ちなみに更にノメると、競合会社で不祥事が起こるとヨッシャやったぜ自滅だぜと大喜びするようになる、多分。)

大事なことなので二度言いますね。リピートアフターミー。


バイト、なめんな。


ほい、オッケーです。

でこういう話、ブラック企業論でおなじみ今野某さんあたりに言わせると「やりがい搾取」って言われてしまうんだろうけど、さ。何かその一言で片付けられるのも淋しいやね、とも思ったりしつつ。ま、搾取はいかんけども。

そんな中(どんな中だ)、ウチにもバカバイトがいやしまいか、アッシ左遷とか記者会見とかまっぴら御免の助でござい、とハラハラドキドキの現場管理職の皆様に、心ばかりのワンポイントアドバイスを。

 

(長くなったのでつづく)